通学して、授業受けて、ちょっと遊んで帰るだけ。
でも、そんな日々って案外、悪くない。
"普通"をちゃんと描いた、小さなお話です。
第1章：朝のミルクティー
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。六時三十分。
川原まいは布団の中でスマホを手に取り、SNSをチェックする。昨夜の投稿についた「いいね」の数。友達からの「おはよー」のコメント。特に変わったことはない、いつもの朝。
「まい、朝ごはんよ」
階下からお母さんの声が聞こえる。
「はーい」
制服を着て、髪をササッと結んで、リビングに下りる。トーストにいちごジャムを塗って、牛乳を一杯。時計は七時十五分。バスに乗るには七時四十分に家を出ればいい。
「行ってきます」
「気をつけて」
玄関を出ると、今日もいい天気だった。空は青くて、雲が少しだけ浮かんでいる。バス停では同じ高校の生徒が何人かいる。知っている顔もあるけど、特に話しかけない。
駅前に着くと、まいはいつものコンビニに向かう。冷蔵コーナーで午後の紅茶のミルクティーを手に取る。毎朝これを飲むのが習慣。甘くて少し濃い味が口の中に広がると、「今日も一日が始まるなあ」と思う。
教室に入ると、友達の美咲がもう来ている。
「おはよー、まい」
「おはよー」
今日の時間割を確認する。一時間目は英語、二時間目は数学、三時間目は体育。普通の一日が始まる。
第2章：放課後、なんとなく
金曜日の最後の授業が終わると、教室にはいつもの解放感が漂う。
「今日、どっか行く？」
美咲が聞くと、まいは少し考える。特に予定はない。でも、このまま家に帰るのも、なんとなく物足りない。
「マックでも行く？」
「いいね」
友達の里香も「私も行く」と言って、結局三人でマクドナルドに行くことになった。
いつものマクドナルドで、ハンバーガーセットを注文。ポテトを食べながら、今日の授業の話、来週のテストの話。
「そういえば、２組の田中君、告白されたらしいよ」
里香が言うと、まいと美咲は興味深そうに身を乗り出す。
「へー、で、どうなったの？」
「よくわからないけど、最近一緒にいるところ見たよ」
「いいなあ、青春って感じ」
恋愛の話をしながら、ポテトを食べる。特別深い話じゃないけど、みんなで話していると楽しい。
「来週のテスト、どうする？」
話題が変わって、勉強の話になる。
「数学が心配」
「今度の土曜日、一緒に勉強しない？」
勉強の計画を立てながら、コーラを飲む。外は、だんだん暗くなってきている。
「あーあ、なんか起きないかなあ」
ふと、そんなことを思う。毎日が同じような感じで、たまには違うことが起きてもいいのに。でも、同時に、今の生活が崩れるのも嫌だな、とも思う。
「まあ、このままでもいいか」
まいは、そんなことを思いながら、友達と別れて家に帰った。
第3章：バイト先のピンチヒッター
土曜日の午後、まいは近所のパン屋さん「ブレッドハウス さくら」でアルバイトをしている。
「まいちゃん、今日はレジをやってみましょうか」
店長の田中さんが声をかけてくれる。まいは、エプロンを身に着けて、レジの前に立つ。
「いらっしゃいませ」
お客さんが入ってくると、まいは笑顔で迎える。メロンパンとコーヒーを注文する。
「合計で三百五十円です」
お客さんが五百円を出すと、まいはお釣りを計算する。百五十円。レジで確認してから、お釣りを渡す。
「ありがとうございました」
午後の忙しい時間帯になると、お客さんが次々と来る。まいは、だんだんレジの操作に慣れてくる。
そのとき、一人のお客さんが小銭を床に落としてしまった。コインが転がって、レジの下に入ってしまう。
「あ、すみません」
お客さんが困った顔をすると、まいは慌てて謝る。
「大丈夫です。今、取りますね」
まいは、レジの下に潜って、コインを探す。暗くて、よく見えないけど、手で探すとやっと見つかった。
「ありがとう、ごめんなさいね」
お客さんが申し訳なさそうに言うと、まいは微笑む。
「いえいえ、大丈夫です」
夕方になると、お客さんの数も減ってくる。
「今日は、本当によく頑張ったね」
田中さんが言うと、まいは嬉しくなる。
「お疲れ様でした」
その言葉が、まいの心に残る。人の役に立って、感謝されるのは、やっぱり嬉しいことだな、と思う。
第4章：雨と自転車とドーナツと
月曜日の放課後、空は重い雲に覆われていた。
「雨、降りそうだね」
美咲が空を見上げながら言う。まいは今日、自転車で学校に来てしまった。朝は晴れていたのに。
友達と別れて、急いで自転車置き場に向かう。しかし、学校を出てすぐに、雨が降り始めた。
「やばい」
まいは、慌てて自転車を止める。雨はどんどん激しくなってくる。仕方なく、自転車を押しながら歩くことにした。
歩いていると、商店街が見えてきた。「Sweet Donuts」という看板が出ている小さなドーナツ屋さんが目に入る。
「雨宿りさせてもらっても大丈夫ですか？」
「もちろんです。何か注文していただければ」
「チョコレートドーナツと、コーヒーをお願いします」
カウンター席に座る。窓の外では、雨が激しく降っている。ドーナツは甘くて、ふわふわしていて、とてもおいしい。
雨音を聞きながら、まいはゆっくりとドーナツを食べる。店内は静かで、他にお客さんはいない。スマホを取り出して、ゲームを始める。
普段は家や学校でゲームをすることが多いけど、こうして外でゲームをするのも、なんだか新鮮だ。雨音がBGMになって、リラックスできる。
「なんか知らんけど、こういう日も悪くない」
まいは、ふとそんなことを思う。雨に濡れたのは嫌だったけど、こうしてドーナツ屋さんで休憩するのは、意外と楽しい。いつもと違う場所で、いつもと違う時間を過ごすのも、たまにはいいかもしれない。
一時間ほど経って、雨がだいぶ弱くなってきた。
「ありがとうございました」
店を出て、自転車にまたがる。雨に濡れた道路はちょっと滑りやすいけど、慎重に走れば大丈夫。
第5章：日曜日、集合、全員だらだら
日曜日の朝、まいは美咲からのメッセージで目を覚ました。
「今日、みんなでカラオケ行かない？」
「いいよ！何時から？」
「一時から。駅前で集合」
一時前に家を出て、駅前に向かう。美咲と里香、それに他のクラスの友達も何人か来ている。
カラオケボックスで、みんなで順番に歌う。最新のJ-POPから、懐かしいアニメソングまで。まいは、お気に入りのアーティストの曲を選ぶ。最初はちょっと恥ずかしいけど、みんなが手拍子してくれるので、だんだん楽しくなってくる。
二時間ほど歌って、今度はプリクラを撮る。ゲームセンターで、みんなでポーズを決めて写真を撮る。完成したプリクラを見ながら、みんなで喜ぶ。
「この写真、かわいい」
「みんな、いい笑顔してる」
その後、ゲームセンターでいろいろなゲームに挑戦。UFOキャッチャーで、やっと一個取れた時は、みんなで大喜び。
最後はドトールに移動。コーヒーを飲みながら話して、宿題も一緒にやる。
「この問題、どうやって解くんだっけ？」
「えーと、まずここを因数分解して...」
コーヒーを飲みながら、勉強するのも、なかなか楽しい。
トイレに行く途中、鏡で自分の顔を見る。
「あー高校生っぽいな私」
友達と過ごして、プリクラを撮って、カラオケで歌って。これが、高校生の楽しみなんだな、と思う。
夕方になって、みんなで解散。帰り道にふと<あした安心感を覚える。友達がいて、楽しい時間があって。それだけで十分幸せなこと。
第6章：保健室の空気
火曜日の三時間目、まいは体調が優れなかった。生理痛が酷くて、授業に集中できない。
「保健室行く？」
美咲が心配そうに声をかけてくれる。
「そうしようかな」
保健室に着くと、保健室の先生、山田先生が机で書類を書いている。
「どうしたの？」
「生理痛で、ちょっと辛くて」
「そう、大変ね。ベッドで休んでいきなさい」
白いベッドに横になって、氷枕をお腹に当てる。痛み止めの薬を飲んで、目を閉じる。保健室は、とても静かで、落ち着いた雰囲気。だんだん眠くなってくる。
一時間ほど経って、まいは目を覚ました。お腹の痛みは、だいぶ良くなっている。
「気分はどう？」
山田先生が声をかけてくれる。
「だいぶ良くなりました」
「それは良かった。ところで、何か悩みとかある？」
「悩み、ですか？」
まいは、少し考える。特に大きな悩みはない。友達関係も順調だし、勉強もそれなりについていけている。
「特にないかな」
「そう、それは素晴らしいことね」
山田先生が微笑む。
「なんにもないって、幸せかもね」
その言葉が、まいの心に残る。自分では、普通だと思っていた生活が、実は幸せなことだったのかもしれない。
「ありがとうございます」
保健室を出て、教室に戻りながら、山田先生の言葉を思い返す。確かに、友達がいて、家族がいて、健康で、勉強ができる。それが当たり前だと思えるのは、恵まれていることなのかもしれない。
第7章：妹の不満とアイスの味
水曜日の夜、まいは自分の部屋で宿題をしていた。
「お姉ちゃん」
妹の心咲が部屋に入ってくる。中学一年生の心咲は、最近ちょっと反抗期気味。
「なんで、勉強しなきゃいけないの？」
いきなりの質問に、まいは戸惑う。
「勉強してもつまらないし、将来役に立つのかよくわからないし」
心咲が不満そうに言う。
「でも、勉強しないと、高校に行けないよ」
「高校だって、なんで行かなきゃいけないの？」
まいは、答えに困る。自分も、そんなことを考えたことがないわけではない。
「うーん、将来の選択肢を広げるため、かな」
「お姉ちゃんは、なんで勉強してるの？」
「なんでって...まあ、やらなきゃいけないことだから、かな」
心咲は、まいの答えを聞いて、少し考える。
夜の十時頃、まいは宿題を終えて、リビングに下りる。冷蔵庫からバニラアイスを取り出す。
「お姉ちゃん」
心咲が、リビングに入ってくる。
「アイス食べてるの？」
「うん。食べる？」
もう一個アイスを取り出して、二人でソファに座る。
「お姉ちゃん」
「何？」
「あんたは普通でいいね」
心咲が、ふと言う。
「普通？」
「うん、悩んでるような感じがしないし、いつも落ち着いてるし」
まいは、心咲の言葉を聞いて、少し考える。
「普通も努力してるんだよ」
「え？」
「普通に見えるように、がんばってるの」
心咲は、まいの言葉を聞いて、驚いたような表情を見せる。
「そうなんだ」
「でも、それが嫌だというわけじゃないよ。むしろ、そうやって努力することで、安心できる」
心咲は、まいの言葉を聞いて、なんとなく理解できるような気がする。
二人でアイスを食べ終わって、それぞれの部屋に戻る。
第8章：寝る前の"まあいいか"
日曜日の夜、まいは一週間を振り返っていた。
ベッドに座って、スマホの日記アプリを開く。今週は、どんな一週間だったかな。
月曜日は、学校の授業。火曜日は、保健室で休んだ。水曜日は、心咲と勉強について話した。木曜日は、友達と図書館で宿題。金曜日は、バイト。土曜日は、家族と買い物。そして今日、日曜日は、家でゆっくり過ごした。
「特別なことは、何もなかったなあ」
まいは、そんなことを思う。でも、日記アプリを見ると、意外とたくさんのことが書かれている。
『月曜日：英語のテスト、思ったより難しかった。でも、がんばった。』
『火曜日：保健室で休んだ。山田先生が、"悩みがないって、幸せなこと"って言ってくれた。』
『水曜日：心咲と勉強について話した。普通でいることも、努力が必要なんだなと思った。』
『木曜日：友達と図書館で宿題。数学の問題、やっと解けた。』
『金曜日：バイト。レジの操作、だんだん慣れてきた。田中さんに褒められた。』
『土曜日：家族と買い物。新しい服を買った。お母さんが、"似合ってる"って言ってくれた。』
『日曜日：家でゆっくり。読書して、テレビ見て、家族と話した。』
「なんだかんだで、書くことがいっぱいあったんだ」
まいは、日記を読み返しながら、そんなことを思う。特別なことはなかったけど、毎日、小さな出来事があった。
友達と過ごす時間、家族との会話、学校での授業、バイトでの経験。どれも、まいにとっては大切な時間。
「普通の一週間だったけど、悪くないな」
窓の外を見ると、夜の街が静かに広がっている。街灯が点いて、いくつかの家の窓にも明かりが見える。
「みんな、どんな一週間だったのかな」
きっと、みんなも、まいと同じような、普通の一週間を過ごしたのかもしれない。
山田先生の言葉を思い出す。「なんにもないって、幸せかもね」。
まいは、改めて自分の生活を振り返る。友達がいて、家族がいて、学校があって、バイトがあって。毎日、やるべきことがあって、楽しいこともある。
「確かに、幸せなのかもしれない」
今日の日記を書く。
『今日は、一週間を振り返った。特別なことは何もなかったけど、日記を見ると、いろいろなことがあった。普通の一週間だったけど、それでも充実してた。』
日記を書き終わると、まいはベッドの中に入る。
「明日は、月曜日だなあ」
また、新しい一週間が始まる。授業があって、友達と話して、家族と過ごして、バイトもあって。きっと、今週と同じような、普通の一週間になるだろう。
「でも、それでいい」
特別なことがなくても、毎日を普通に過ごせるのは、実は贅沢なことなのかもしれない。
「明日も、普通であるといいな」
まいは、そんなことを思いながら、目を閉じる。
朝のミルクティーから始まった今週も、こうして静かに終わっていく。何も特別なことはなかったけど、それでも満足な一週間だった。
「まあ、いいか」
まいは、そんなことを思いながら、深い眠りに落ちていった。
特別なことがなくても、日常の中に小さな幸せがたくさんある。友達の笑顔、家族の優しさ、おいしい食事、静かな夜の時間。
「いつものまいにち」
それが、まいにとっては一番の贈り物。明日も、きっと、いつものような一日が始まる。そして、また夜にはこうしてベッドで一日を振り返る。
その普通の毎日が、まいにとっては何よりも大切なもの。
おわり
終わりに最後まで読んで頂いて有難うございました。
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