人生には、突然すべてを投げ出したくなる瞬間がある。
理由なんてない。ただ、このままではいけないという、漠然とした焦燥感だけがある。
そして私は、その衝動に従って会社を辞め、行き先も決めずに旅に出た。
第一章 衝動の夜
「田中、また残業か?」
同僚の佐藤が帰り支度をしながら声をかけてきた。時計を見ると、もう夜の九時を回っている。
「ちょっと資料の修正があって」
実は三度目の修正だった。課長から「もう少し分かりやすく」と言われて直したものを、部長が「データが古い」と言って差し戻し、今度は「グラフの色を変えろ」と言われた。
佐藤が帰った後、オフィスには私一人が残された。蛍光灯の白い光が、やけに冷たく感じられた。
「何のために働いてるんだろう」
最近、そんなことばかり考えていた。毎日遅くまで働いて、休日も会社のことを考えて。それでも評価は上がらず、給料もほとんど変わらない。
昨日は取引先でのプレゼンが失敗に終わった。準備に一週間かけたのに、相手にまったく響かなかった。帰りの電車で、窓に映る自分の顔が情けなく見えた。
今朝は遅刻しそうになって、朝食を抜いて会社に来た。昼休みは会議で潰れ、夕食もコンビニ弁当をデスクで食べた。
「俺、何やってんだろう」
机の上に辞表を書き始めていた。気がつくと、「退職願」の文字を書いていた。
手が勝手に動いていた。まるで、体が先に決断していたかのように。
辞表を課長の机に置いた時、私の手は震えていた。
「田中、ちょっと待て。何があったんだ?」
慌てて追いかけてくる課長の声を背中に聞きながら、私はエレベーターに駆け込んだ。
「すみません、もう決めたことなんで」
扉が閉まる瞬間、課長の困惑した表情が見えた。五年間お世話になった人だった。でも、もう引き返せない。
会社を出ると、夜の街が広がっていた。いつもなら終電に間に合うよう急いで帰る時間だった。でも今日は違う。
アパートに戻る途中、近所のカフェに入った。この時間まで開いている小さな店だった。コーヒーを頼んで、窓際の席に座った。
街を行き交う人たちを眺めながら、私は考えていた。本当にこれで良かったのだろうか。でも、もうあの会社には戻れない気がした。
「どこか遠くに行きたい」
そんな気持ちが湧いてきた。
アパートに戻って荷物をまとめた。といっても、着替えと財布、それに文庫本を数冊リュックに詰めただけだった。他に持っていきたいものが思い浮かばない。
駅に向かう途中、コンビニで弁当を買った。店員の女の子が「ありがとうございました」と言ってくれた時、なぜか涙が出そうになった。
夜行列車のホームで、私は行き先を決めた。
東北の小さな町。名前も知らない場所だった。ただ、遠くに行きたかった。今の自分から、できるだけ遠く。
「俺、何やってんだろう」
列車が動き出すと、窓の外に街の灯りが流れていく。一つ一つの明かりの向こうで、人々が暮らしている。家族と夕食を囲んだり、テレビを見て笑ったり、明日の準備をしたり。
私には、そんな当たり前の幸せが、なぜかとても眩しく見えた。
座席に座って弁当を食べようとしたが、喉を通らない。窓に映る自分の顔は、ひどく疲れて見えた。三十二歳。会社員として順調にキャリアを積んできたはずなのに、今の私は何もない。
帰る場所はあるけれど、そこにはもう戻りたくなかった。
車内は静かだった。乗客はまばらで、皆それぞれの理由でこの夜行列車に乗っている。逃げるように、あるいは何かを求めるように。
私も逃げているのだろうか。でも、何から逃げているのかも分からない。ただ、あの会社にいることが耐えられなくなっただけだ。
スマートフォンが震えた。課長からの着信だった。私は電源を切った。今は、誰とも話したくなかった。
気がつくと、列車の揺れに身を任せて眠っていた。
第二章 行き当たりばったりの旅
朝、見知らぬ駅で降りた。
小さな町だった。駅前には商店街らしきものがあるが、シャッターを下ろしている店が多い。平日の朝だというのに、人通りも少ない。
とりあえず食事をしようと思い、開いている食堂を探した。「おふくろ食堂」という看板の店が目に入った。
引き戸を開けると、カウンターに座った地元の人らしい男性が数人、朝食を取っていた。
「いらっしゃい」
五十代くらいの女性が声をかけてくれた。おそらく女将だろう。
「朝定食をお願いします」
「はいよ。お疲れのようだけど、旅の人かい?」
私が頷くと、女将は優しい笑顔を見せた。
「疲れてる顔してるね。ゆっくりしていきなさい」
出てきた朝定食は、家庭的な味だった。焼き魚、味噌汁、漬物、それに炊きたてのご飯。シンプルだけど、心がほっとする味だった。
「美味しいです」
「ありがとう。うちの味噌は自家製なんだよ」
女将が嬉しそうに話してくれた。
「ところで、この辺りに宿はありますか?」
「駅前に民宿があるよ。おばあちゃんがやってる小さなところだけど、親切な人だから」
女将に教えてもらった民宿を訪ねると、確かに小さな宿だった。玄関で声をかけると、腰の曲がったおばあさんが出てきた。
「お泊まりですか?」
「はい、一泊お願いします」
「遠いところからお疲れさま。お部屋はこちらです」
案内された部屋は六畳の和室だった。窓からは田んぼが見える。のどかな風景だった。
荷物を置いて、私は町を歩いてみることにした。特に目的はない。ただ歩いてみたかった。
商店街を抜けると、川沿いの遊歩道があった。ベンチに座って川を眺めていると、なぜか心が少し軽くなった気がした。
スマートフォンの電源を入れると、課長からの着信履歴が五件もあった。申し訳ない気持ちになったが、まだ話す気になれなかった。また電源を切った。
「ここに来て良かったのかもしれない」
そんなことを考えていると、隣にベンチに座った人がいた。
第三章 出会いと問いかけ
「こんにちは」
振り返ると、私と同じくらいの年齢の男性が座っていた。リュックを背負っているところを見ると、やはり旅の人のようだった。
「こんにちは」
「いい場所ですね、ここ」
男性は川を見つめながら言った。
「そうですね。静かで」
「旅の途中ですか?」
「ええ、まあ」
私は曖昧に答えた。
「僕もです。もう三ヶ月くらい、あちこち旅してるんです」
「三ヶ月も?」
「仕事を辞めて、自分探しの旅って奴です」
彼は苦笑いを浮かべた。
「僕も逃げてきたんですよ。あなたもそうですか?」
突然の問いかけに、私は戸惑った。
「逃げてるって…」
「いえ、悪い意味じゃないんです。何かがイヤになって、とりあえず遠くに行きたくなる。そんな気持ち、分かります」
彼の言葉は、妙に心に響いた。
「で、見つかりました?自分」
「それが、まだなんです」
彼は首を振った。
「でも、逃げてるだけじゃダメだってことは分かりました。結局、自分自身からは逃げられませんから」
私は返事に困った。
「どんなお仕事をされてたんですか?」
「会社員です。昨日、辞めてきました」
「そうですか。僕と似てますね」
彼は笑った。
「辞めた理由は?」
「特にないんです。ただ、このままじゃダメだって思って」
「それだけで十分じゃないですか」
彼の言葉に、私は少し救われた気がした。
「でも、これからどうしていいか分からないんです」
「それも当然ですよ。僕だって、まだ答えが見つからない」
私たちはしばらく、川を眺めながら黙っていた。
「でも、一つだけ分かったことがあります」
彼が口を開いた。
「逃げてるうちは、何も変わらないってことです。いつかは、自分と向き合わなければならない」
その夜、民宿で一人、私は彼の言葉を考えていた。
スマートフォンを見ると、課長以外にも何人かの同僚から着信があった。皆、心配してくれているのかもしれない。でも、まだ話す準備ができていなかった。
自分と向き合う。それが一番怖いことかもしれない。
第四章 故郷への帰路
翌朝、私は帰ることにした。
特別な理由があったわけではない。ただ、もうここにいても答えは見つからないような気がした。
駅で切符を買いながら、私は考えていた。結局、何も見つけられなかった。会社を辞めた理由も、これからどうするかも、まだ分からない。
でも、何かが変わった気がした。
夜行列車に乗り込んで、窓際の席に座った。昨日と同じ車両だったが、今度は窓に映る自分の顔が少し違って見えた。
疲れてはいるが、どこか穏やかな表情をしている。
「帰ろう」
そう決めた自分に、ようやく心が追いついた。
列車が動き出すと、あの小さな町の灯りが遠くなっていく。短い滞在だったが、大切なものを教えてもらった気がした。
食堂の女将の優しさ、民宿のおばあさんの温かさ、旅人との出会い。人の優しさに触れて、私の心は少し癒された。
そして気づいた。私が逃げていたのは、自分自身だった。
会社での日々に疲れ、自分が何をしたいのか分からなくなって、ただ逃げ出したかった。でも、逃げても答えは見つからない。
今度は、ちゃんと自分と向き合ってみよう。
携帯電話の電源を入れると、課長からの着信履歴がさらに増えていた。他の同僚からも何件かメッセージが届いている。きっと心配してくれているのだろう。
明日、会社に連絡して、きちんと話をしよう。引き継ぎのことや、今後のことを。
そして、本当に自分が何をしたいのかを、ゆっくり考えてみよう。
車窓に流れる景色を見ながら、私は思った。人生は長い。焦る必要はない。立ち止まって考える時間があってもいい。大切なのは、自分に正直になることだ。
朝になって、見慣れた街の景色が見えてきた。
「ただいま」
小さく呟いて、私は席を立った。
改札を出ると、いつもの街の喧騒が迎えてくれた。以前は煩わしく感じていた音も、今は懐かしく感じられた。
アパートに戻って、ゆっくりと風呂に入った。湯船に浸かりながら、この二日間のことを振り返った。衝動的に会社を辞めて、知らない町に行って、優しい人たちに出会って。
無謀だったかもしれない。でも、後悔はしていない。必要な時間だったのだと思う。
風呂から上がって、鏡を見た。顔つきが少し変わったような気がした。まだ疲れてはいるが、以前のような絶望感はない。
翌朝、私は課長に電話をした。
「田中です。ご心配をおかけしました」
「おお、田中!大丈夫か?連絡が取れなくて心配してたんだ」
課長の声には、本当に心配してくれていたことが伝わってきた。
「申し訳ありませんでした。今度、きちんと話をさせてください」
「もちろんだ。いつでも来い。みんな心配してるんだから」
電話を切って、私は深呼吸をした。
窓の外で、いつもの街の朝が始まっていた。
私も、また歩き出す。
今度は、逃げずに。
〈完〉# 小説『今日会社を辞めてきました』
人生には、突然すべてを投げ出したくなる瞬間がある。
理由なんてない。ただ、このままではいけないという、漠然とした焦燥感だけがある。
そして私は、その衝動に従って会社を辞め、行き先も決めずに旅に出た。
第一章 衝動の夜
辞表を課長の机に置いた時、私の手は震えていた。
「田中、ちょっと待て。何があったんだ?」
慌てて追いかけてくる課長の声を背中に聞きながら、私はエレベーターに駆け込んだ。
「すみません、もう決めたことなんで」
扉が閉まる瞬間、課長の困惑した表情が見えた。五年間お世話になった人だった。でも、もう引き返せない。
会社を出ると、夜の街が広がっていた。いつもなら終電に間に合うよう急いで帰る時間だった。でも今日は違う。私にはもう帰る場所がない。正確には、帰りたくない場所しかない。
アパートに戻って荷物をまとめた。といっても、着替えと財布、それに文庫本を数冊リュックに詰めただけだった。他に持っていきたいものが思い浮かばない。
駅に向かう途中、コンビニで弁当を買った。店員の女の子が「ありがとうございました」と言ってくれた時、なぜか涙が出そうになった。
「俺、何やってんだろう」
夜行列車のホームで、私は呟いた。
行き先は適当に決めた。東北の小さな町。名前も知らない場所だった。ただ、遠くに行きたかった。今の自分から、できるだけ遠く。
列車が動き出すと、窓の外に街の灯りが流れていく。一つ一つの明かりの向こうで、人々が暮らしている。家族と夕食を囲んだり、テレビを見て笑ったり、明日の準備をしたり。
私には、そんな当たり前の幸せが、なぜかとても眩しく見えた。
座席に座って弁当を食べようとしたが、喉を通らない。窓に映る自分の顔は、ひどく疲れて見えた。三十二歳。会社員として順調にキャリアを積んできたはずなのに、今の私は何もない。
「本当に、何やってんだ俺」
車内は静かだった。乗客はまばらで、皆それぞれの理由でこの夜行列車に乗っている。逃げるように、あるいは何かを求めるように。
私も逃げているのだろうか。でも、何から逃げているのかも分からない。ただ、あの会社にいることが耐えられなくなっただけだ。毎日同じことの繰り返し、意味を感じられない仕事、上司の理不尽な要求。
気がつくと、列車の揺れに身を任せて眠っていた。
第二章 行き当たりばったりの旅
朝、見知らぬ駅で降りた。
小さな町だった。駅前には商店街らしきものがあるが、シャッターを下ろしている店が多い。平日の朝だというのに、人通りも少ない。
とりあえず食事をしようと思い、開いている食堂を探した。「おふくろ食堂」という看板の店が目に入った。
引き戸を開けると、カウンターに座った地元の人らしい男性が数人、朝食を取っていた。
「いらっしゃい」
五十代くらいの女性が声をかけてくれた。おそらく女将だろう。
「朝定食をお願いします」
「はいよ。お疲れのようだけど、旅の人かい?」
私が頷くと、女将は優しい笑顔を見せた。
「疲れてる顔してるね。ゆっくりしていきなさい」
出てきた朝定食は、家庭的な味だった。焼き魚、味噌汁、漬物、それに炊きたてのご飯。シンプルだけど、心がほっとする味だった。
「美味しいです」
「ありがとう。うちの味噌は自家製なんだよ」
女将が嬉しそうに話してくれた。
「ところで、この辺りに宿はありますか?」
「駅前に民宿があるよ。おばあちゃんがやってる小さなところだけど、親切な人だから」
女将に教えてもらった民宿を訪ねると、確かに小さな宿だった。玄関で声をかけると、腰の曲がったおばあさんが出てきた。
「お泊まりですか?」
「はい、一泊お願いします」
「遠いところからお疲れさま。お部屋はこちらです」
案内された部屋は六畳の和室だった。窓からは田んぼが見える。のどかな風景だった。
荷物を置いて、私は町を歩いてみることにした。特に目的はない。ただ歩いてみたかった。
商店街を抜けると、川沿いの遊歩道があった。ベンチに座って川を眺めていると、なぜか心が少し軽くなった気がした。
「ここに来て良かったのかもしれない」
そんなことを考えていると、隣にベンチに座った人がいた。
第三章 出会いと問いかけ
「こんにちは」
振り返ると、私と同じくらいの年齢の男性が座っていた。リュックを背負っているところを見ると、やはり旅の人のようだった。
「こんにちは」
「いい場所ですね、ここ」
男性は川を見つめながら言った。
「そうですね。静かで」
「旅の途中ですか?」
「ええ、まあ」
私は曖昧に答えた。
「僕もです。もう三ヶ月くらい、あちこち旅してるんです」
「三ヶ月も?」
「仕事を辞めて、自分探しの旅って奴です」
彼は苦笑いを浮かべた。
「あなたも、何かから逃げてきたんですか?」
突然の問いかけに、私は戸惑った。
「逃げてるって…」
「いえ、悪い意味じゃないんです。僕もそうでしたから。何かがイヤになって、とりあえず遠くに行きたくなる。そんな気持ち、分かります」
彼の言葉は、妙に心に響いた。
「で、見つかりました?自分」
「それが、まだなんです」
彼は首を振った。
「でも、逃げてるだけじゃダメだってことは分かりました。結局、自分自身からは逃げられませんから」
私は返事に困った。
「あなたは、何から逃げてるんですか?」
彼の問いかけに、私は答えられなかった。本当に、何から逃げているのだろう。
「会社を辞めてきたんです。昨日」
「そうですか。勇気ありますね」
「勇気じゃないです。ただの衝動です」
「でも、行動しただけ偉いですよ。僕なんて、辞めるまでに半年も悩みました」
彼は笑った。
「辞めた理由は?」
「特にないんです。ただ、このままじゃダメだって思って」
「それだけで十分じゃないですか」
彼の言葉に、私は少し救われた気がした。
「でも、これからどうしていいか分からないんです」
「それも当然ですよ。僕だって、まだ答えが見つからない」
私たちはしばらく、川を眺めながら黙っていた。
「でも、一つだけ分かったことがあります」
彼が口を開いた。
「逃げてるうちは、何も変わらないってことです。いつかは、自分と向き合わなければならない」
その夜、民宿で一人、私は彼の言葉を考えていた。
自分と向き合う。それが一番怖いことかもしれない。
第四章 故郷への帰路
翌朝、私は帰ることにした。
特別な理由があったわけではない。ただ、もうここにいても答えは見つからないような気がした。
駅で切符を買いながら、私は考えていた。結局、何も見つけられなかった。会社を辞めた理由も、これからどうするかも、まだ分からない。
でも、何かが変わった気がした。
夜行列車に乗り込んで、窓際の席に座った。昨日と同じ車両だったが、今度は窓に映る自分の顔が少し違って見えた。
疲れてはいるが、どこか穏やかな表情をしている。
「帰ろう」
そう決めた自分に、ようやく心が追いついた。
列車が動き出すと、あの小さな町の灯りが遠くなっていく。短い滞在だったが、大切なものを教えてもらった気がした。
食堂の女将の優しさ、民宿のおばあさんの温かさ、旅人との出会い。人の優しさに触れて、私の心は少し癒された。
そして気づいた。私が逃げていたのは、自分自身だった。
会社での日々に疲れ、自分が何をしたいのか分からなくなって、ただ逃げ出したかった。でも、逃げても答えは見つからない。
今度は、ちゃんと自分と向き合ってみよう。
携帯電話に、課長からの着信履歴がいくつかあった。きっと心配してくれているのだろう。明日、会社に連絡して、きちんと話をしよう。
引き継ぎのことや、今後のことを。
そして、本当に自分が何をしたいのかを、ゆっくり考えてみよう。
車窓に流れる景色を見ながら、私は思った。
人生は長い。焦る必要はない。立ち止まって考える時間があってもいい。大切なのは、自分に正直になることだ。
朝になって、見慣れた街の景色が見えてきた。
「ただいま」
小さく呟いて、私は席を立った。
改札を出ると、いつもの街の喧騒が迎えてくれた。以前は煩わしく感じていた音も、今は懐かしく感じられた。
アパートに戻って、携帯電話を見ると、課長以外にも何人かの同僚から連絡があった。皆、心配してくれていたのだ。
一人ずつ、返事を書いた。
「心配をおかけしてすみませんでした。今は大丈夫です」
短いメッセージだったが、心を込めて送った。
それから、私は久しぶりにゆっくりと風呂に入った。
湯船に浸かりながら、この二日間のことを振り返った。衝動的に会社を辞めて、知らない町に行って、優しい人たちに出会って。
無謀だったかもしれない。でも、後悔はしていない。
必要な時間だったのだと思う。
風呂から上がって、鏡を見た。顔つきが少し変わったような気がした。まだ疲れてはいるが、以前のような絶望感はない。
翌朝、私は課長に電話をした。
「田中です。ご心配をおかけしました」
「おお、田中!大丈夫か?」
課長の声には、本当に心配してくれていたことが伝わってきた。
「はい。今度、きちんと話をさせてください」
「もちろんだ。いつでも来い」
電話を切って、私は深呼吸をした。
これから、新しい人生が始まる。まだ何をするかは決まっていないが、きっと大丈夫だ。
私には、優しい人たちとの思い出がある。そして、自分と向き合う勇気を見つけた。
窓の外では、いつもの街の一日が始まろうとしていた。
私も、新しい一日を始めよう。
今度は、逃げずに。
おわり
最後まで読んで頂いて有難うございました。
お願いがあります。
この小説は有料版のChatGPTを使用して執筆しています。
そこで、もしAmazonでお買い物予定がある方は以下のリンクから購入して頂けると広告収入が入って助かります。
あなたに直接的な負担はありません。
広告収益をChatGPT有料版の費用にさせて下さい。
(Amazonアソシエイト広告です。)

おススメの小説をご紹介
-
短編小説|閉鎖世界
2025/5/25
青白いモニターの光だけが、閉ざされた部屋の時間を刻んでいる。名前を呼ばれることも、声をかけられることもない。けれど、孤独は静かに満ちていった。 目次第1章:壁の ...